ベースの役割は、ドラムスほどアグレッシヴではありません。ベースなんか聴いていないよというジャズファンもいるかも知れません。
形式的に言うと、1小節に4回音を出すシンプルな演奏(ウォーキング・ベースといいます)で、ドラムスよりもむしろベースが、「一定のリズムのキープ」という役割を担います。どんなベーシストも、そんな役割をあたりまえのように淡々とこなしているだけのように感じます。しかしよく聴くと、ベースは、ジャズ的空気をつくるのに意外なほど重要な役割を果たしていると思います。
僕は、そんなベースの役割は、映画におけるカメラ(撮影)に似ていると思っています。たとえば北野武監督の初期の作品は、画面がわずかに青みがかっています(「キタノブルー」とよばれます)。しかし普通の風景の映った画面の全体が一様に青みがかっていても、人間の脳はそれを補正するのですぐには気づきません。しかし映画を観ている人の深層心理には明らかな影響がある。ベースも同様で、聴いていないようで聴こえていて、「ジャズ聴いてる」感を盛り上げてくれます。
ウォーキング・ベースであっても、1音の前の方でつんのめるように音を出すか、後の方でどっしりと音を出すかで、ジャズの印象は変わります。もちろん、コードやモードの枠内でどのような音を選択するかも重要です。
では、これまで紹介したアルバムの中から、印象深いウォーキングベースを聴いてみましょう。
[4] ジョン・コルトレーン『ブルー・トレイン』のポール・チェンチバース
「ブルー・トレイン」をもう一度聴いてください。フィリー・ジョー・ジョーンズのドラムスとともに、この曲のドライブ感を盛り上げています。ウォーキングベースという単純な演奏方法で、聴き手の身体をも動かしてしまうドライブ感(ジャズでは「スイング感」ともいいます)が生み出されるのは、ジャズの神秘とさえ思います。
[6]『スティット,パウエル & J. J.』のカーリー・ラッセル
「神の子はみな踊る」を聴いてください。汗が飛び散るのが見えるような演奏です。1分45秒辺りで、バド・パウエルのピアノのフレーズが複雑化するのに合わせて音がグイグイと上がっていくところがカッコいい。
[11] キャノンボ一ル・アダレイ『サムシン・エルス』のサム・ジョーンズ
サム・ジョーンズは僕の好きなベーシストです。何と言うか、音楽学校的な意味では上手なベーシストではないと思いますが、古くて大きな木造家屋のようなどっしりとした安定感があります。また、意識的かどうかわかりませんが、音にヴァリエーションがある。与えてくれる「ジャズ聴いてる」感が高いベーシストです。
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