ジャズの扉を叩こう!
−ジャズという素晴らしい音楽 入門編−


第2回
BY 公子王孫
アドリブソロ その2

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 ジャズを聴くことにはたくさんの楽しむべきポイントがありますが、まず最初に親しんで欲しいことは、アドリブソロのメロディを楽しむことです。これから何回かにわたって、そのためのアルバムをあげていきます。
 そのほとんどが1950年代後半から60年代の前半に録音されたアルバムになるでしょう。この時代はジャズの全盛期で、ジャズミュージシャンたちは何の迷いもなく最高のジャズを目指して思いっきりアドリブソロを演奏しています。そのような演奏を思いっきり聴くことは、ジャズに慣れ親しむ、偉そうに言えば、ジャズ鑑賞の基礎を作るのに最適です。
 一方、当時が全盛ということは、今は盛りを過ぎていると言えるでしょう。これは認めざるを得ない現実です。そういう現代のミュージシャンには、今の時代に何で自分はジャズをやっているんだろうという自問や迷いは必ずあると思います。そのような迷いを突き抜けて到達した新しい世界を聴くことが、現代のジャズを聴くことのいちばんの面白さです。逆にこれは全盛期のジャズからは得られません。
 しかし、のちのちそのような面白さをわかるためにも、ここで基礎を作っておきましょう。


[1] ソニー・ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』(1956年)
Sonny Rollins “Saxophone Colossus” (Prestige)


ソニー・ロリンズ (ts)
トミー・フラナガン (p)
ダグ・ワトキンス (b)
マックス・ローチ (ds)

1956年6月22日 録音
1. セント・トーマス
2. ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ
3. ストロード・ロード
4. モリタート
5. ブルー・セヴン


 テナー・サックス奏者、ソニー・ロリンズのアルバムです。すべてのジャズのアルバムの中で最高傑作は?というアンケートでしばしば1位に選ばれる、ジャズの「名盤」の代表例です。アドリブソロの完成度の高さでは群を抜いているアルバムだと、僕も思います。
 ジャズにおいて最も標準的なグループ編成は、「フロント」と呼ばれるトランペットやサックス(アルトまたはテナー)と「リズムセクション」と呼ばれるピアノ+ベース+ドラムスからなります。フロントが1人なら「カルテット(四重奏)」、2人なら「クインテット(五重奏)」です。このアルバムの場合は、フロントはロリンズだけのカルテットです。
 ここでは、「モリタート」に注目しましょう。前回述べたように、まず原曲のメロディをしばらく演奏してから、各人のアドリブソロに入ります。『三文オペラ』という音楽劇の劇中歌からスタンダード化したこの名曲を、ロリンズは淡々と吹いています。
 47秒あたりからいよいよアドリブソロに入ります。普通のジャズミュージシャンはここから急にスイッチが入る人が多いですが、この人は手探りするように入って行きます。この「もったいぶり」ができるのは、将棋の羽生さんのように、先読みができるからでしょうか。この、読みの到達距離の長さが、この人のジャズミュージシャンとしてのスケールの大きさです。

 とにかくここから先のテナーサックスの奏でるメロディをひたすら追っていけばいいのですが、それでは集中力が続かないという人は、何か「妄想」しながら聴いてみてはいかがでしょう。僕の場合、「モリタート」のアドリブソロを聴くと、空を飛ぶことを妄想してしまいます。
 素朴で伸び伸びとしたテーマメロディは、天気のいい日に見晴らしのいい窓から景色を眺めていて、空を飛びたいなぁと歌っているように聴こえます。そして、ロリンズのアドリブ・ソロに入ると、実際に空を飛んでしまいます。
 最初は窓の近くを恐る恐る飛んでいますが、ソロが盛り上がるにつれ、どんどん高く上っていきます。そしてトミー・フラナガンのピアノにソロが引き継がれると、今度は青空にぽっかりと浮かんだ真っ白な雲の上で気持ちよくうたた寝をしてしまいます。

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