ジャズの扉を叩こう!
−ジャズという素晴らしい音楽 入門編−


第16回
BY 公子王孫
相互作用その1

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 現代音楽の作曲家ジョン・ケージの次の言葉が、ジャズファンの間やジャズ論壇でしばしばとりあげられます。
「たいていのジャズの曲で私耳にするのは、会話に似た即興です。一人の音楽家が他の音楽家に応える。だから各人は自分がやりたい演奏をするかわりに、できるだけうまく他の演奏に応えるためにのみ、耳をそばだてて演奏を聴くのです。」  
 どういう文脈で語られたのかは知らないのですが、少なくともジャズに好意的な言葉でないのはたしかでしょう。しかしこの「会話に似た即興」という言葉は、ジャズという音楽を的確に表しています。問題は「うまく応える」の意味で、ジャズではこれは必ずしも「友好的」という意味にはなりません(第5回参照)。

 ジャズの典型的なグループ編成では、アドリブソロを演奏するフロントと、伴奏するリズムセクションにわかれることは以前述べました。そうすると、リズムセクションは強固な"舞台"を設定し、フロントはその上で暴れることができるという状況を思い浮かべるかも知れませんが、ジャズの場合はそれほど単純ではありません。フロントはリズムセクションから影響を受け、同時にリズムセクションに影響を与えるという「相互作用」が存在します。(この相互作用をジョン・ケージは「会話」とよんでいます。)
 第1回で、目で文字を追うように集中してアドリブソロを聴きましょうと言いました。しかし、余裕が出てきたら、これまで紹介してきたすベてのアルバムを、フロントとリズムセクションの相互作用、簡単にいえば「からみ」という点からもう一度楽しみなおすことができます。

 からみが最もわかりやすいのはドラムスです。ポピュラー音楽にはたいていの場合、バンドや伴奏にドラムスが含まれていますね。もちろんジャズも例外ではありませんが、他のジャンルとくらべて、ドラムスの役割が大きく拡大されています。
 ふつうドラムスは、一定のリズムをキープすることが役割です。せいぜい演奏が単調にならないように何小節かに一度いわゆる「オカズ」を入れるくらいでしょう。上でも述べましたが、リズムが安定に刻まれることで、他のメンバーが思いっきり演奏できるという思想です。
 しかしジャズの場合は、もちろん一定のリズムを刻むのも仕事ですが、その役割はかなり弱められます。そして、即興的にドラムを叩くことで、アドリブソロを演奏しているミュージシャンと「からむ」あるいは「あおる」ことかがメインの仕事です。そのときドラマーがつくっているものは、リズムというより、通常の楽器のような音程こそないものの「メロディ」といった方がふさわしいとさえ思います。
 これまで紹介してきたアルバムですと、以下のドラマーたちが、フロントとの聴きごたえのあるからみを聴かせます。
[1] ソニー・ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』のマックス・ローチ
 今度は「セント・トーマス」を聴いてみてください。この人の特徴は、まずカッチリとしたドラムをたたくことでしょうか。またこの人のドラムスが「メロディ」をいちばん感じさせてくれます。音楽全体を下支えしながら、よりそうようにからむこともできるし、軽みも重厚さも表現できる万能のドラマーです。
[4]『ブルー・トレイン』のフィリー・ジョー・ジョーンズ
 この人は突き放してあおるタイプのドラマーです。もう一度「ブルー・トレイン」を聴いてみてください。この人のドラムスの派手さと荒々しさが、このアルバムにぴったりです。基本パターンがいくつかあって、ソロの展開によってドラムのたたき方を変えているので、長い曲が単調になっていません。
[10]『エリック・ドルフィー・アット・ザ・ファイヴスポット Vol. 1』のエド・ブラックウェル
 この人のドラムスは、あおっているというより、ドルフィーによりそう理解者として応援しているように感じます。まさにジョン・ケージの言うように、アドリブソロという一本の音の流れに耳をそばだて、全身で呼応しています。

 こうやってドラマーたちの演奏を聴きくらべてみると、ドラマーのからみ方にも個性がある(第8回参照)ことがわかりますね。


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