ジャズの扉を叩こう!
−ジャズという素晴らしい音楽 入門編−


第8回
BY 公子王孫
ジャズの知識 その1

前回へ 目次 次回へ

 [3]のウォルター・ビショップ Jr.と前回の[6]『スティット,パウエル & J. J.』のバド・パウエルのピアノを聴き比べてみてください。独特の粘りと重みのある音に類似性は感じられますか?
 実はウォルター・ビショップは、「パウエル派」と呼ばれるピアニストのひとりなんです。
 ジャズにも派閥があるんだと驚く人もいるかも知れませんが、パウエルのもとにピアニストが集まって他の派閥の悪口を言っているわけではありません。
 前回、ジャズミュージシャンは個人事業主と言いましたが、各ミュージシャンの事業を成り立たせるために最も重要な要件は、「個性」です。「個性」は、「即興」と並んでジャズの演奏における最重要ポイントです。
 個性をゼロから構築するのは簡単なことではありません。したがって、リスペクトする誰かの強い影響のもとで基盤をつくり、その上に自分の個性を築くということが行われます。
 ほぼゼロから個性を築き、なおかつその個性が多くのミュージシャンに影響を与えた偉大なミュージシャンがジャズ界には何人かいます。そのひとりがバド・パウエルで、彼をリスペクトし影響を受けた人たちが「パウエル派」と呼ばれています。
 ちなみに、[2]のビル・エヴァンスを「すごい」と言ったのは、パウエルの影響から脱してほぼゼロから個性を築き、なおかつ現在に至るまで「エヴァンス派」と呼ばれるピアニストを輩出しているからです。

 ジャズという音楽ができてから100年以上の時間が経っていますから、クラシック音楽や絵画のように、スタイルの変遷過程というものがあります。それを「歴史」と呼んでいいでしょう。バド・パウエルやビル・エヴァンスは、歴史上の重要人物と言えます。
 それでは、そのような歴史を知っておくことが、ジャズを聴く上で必要でしょうか? よく言われることは、「ジャズを聴くのはお勉強じゃないんだから、そんな知識は必要ないよ。」
 しかし僕は、もしジャズをできるだけ広く深く楽しみたいと思ったら、実際に聴くのと並行して、歴史の知識も増やしていくのに越したことはないと思います。次回はその理由を述べたいと思います。

CATFISH RECORDSへ