ジャズの扉を叩こう!
−ジャズという素晴らしい音楽 入門編−


第9回
BY 公子王孫
ジャズの知識 その2

前回へ 目次 次回へ
 さて、今回は、ジャズの歴史についての知識をもっていた方がよい理由を述べたいと思います。
 理由は二つあります。まず、膨大な数のジャズのアルバムの中で、「今の」自分に楽しめるアルバムを探すのに役に立つから。それと、「今の」自分にわからないジャズを理解するのに、歴史がヒン卜になるから。

 ジャズには、時代ごとにその時代を象徴する「スタイル」が生まれています。例えば、1930年代には「スイング・ジャズ」、'40年代には「ビ・バップ」、'50年代には「ハード・バップ」、'60年代には「モード」と「フリー・ジャズ」といった具合です。「スタイル」とは、もちろん演奏のスタイルのことですが、われわれ聴く側から言えば、スタイルが違えば聴こえる印象も違うということになります。
 そこで、まずはスタイルによってジャズを分類することを覚えましょう。そしてそれぞれのスタイルに代表的ミュージシャンがいますから、結局、録音年月日とミュージシャンの名前を見れば、演奏の様子は大まかに想像がつくようになります。そういう知識が、キャットフィッシュレコードでCDを選ぶときのガイドになるでしょう。

 音楽に限りませんが、芸術の作り手の側には常に「価値観」があります。もし、自分に理解できない音楽があって、その音楽を理解したい楽しめるようになりたいと強く思ったら、その価値観に歩み寄ることが必要ではないかな。
 どんな芸術作品も、突然変異的に現れるわけではなく、何らかの「歴史的必然性」が背景にあるでしょう。歩み寄り方がわからない場合は、歴史を学び、その作品が登場するまでの過程をフォローしてみることが、大きなヒントになると思います。

 歴史を学ぶ方法ですが、本を読むのが手っ取り早いですね。僕の場合は、昨年休刊したジャズ専門雑誌「スイングジャーナル」の別冊として1988年に出版された『ジャズ歴史・スタイル事典』にずいぶんお世話になりました。今だったら、ジャズ評論家の故・油井正一氏が1972年に著した『ジャズの歴史物語』が復刊になっているので、それが良いと思います。

 ところで、当然ですが、歴史を知りそれを論じることができるレベルに達したとしても、それが音楽を理解したことには絶対にならないということを忘れてはいけません。音を聴いたときに自分の中で起こる「反応」を客観的に見ることができて、かつそれに正直に対応できる。つまり「体感」として理解できているかどうかを自分で判断できているなら、知識は楽しめる範囲を広げてくれるでしょう。
 例えば、このアルバムは「ハード・バップ」、こっちは「モード」ということを知っていても、「ハード・バップ」と「モード」の聴こえ方の違いに注意を払わなければ、その知識はジャズの楽しみを深めてはくれません。
 歴史を知った上であらためてアルバムを聴き直すことによって、ミュージシャンが世の中に向かって表現したかったことが何であったかがわかります。それによって、そのアルバムに確実に一歩、近づけるでしょう。そういう経験を積み重ねると、アルバム紹介本やジャズ雑誌にあるジャズ特有の言葉遣いも理解できるようになります。そうやって、ジャズを広く楽しむための「使える」情報も増えていきます。

 歴史的発展の末に登場したものを、そこだけ切り取ってすぐに理解できるようなハイレベルな理解力は、ジャズを楽しむためには必要ありません。「音楽なんて好きなように聴けばいいんだよ」という言葉が、どれほど多くの人を路頭に迷わせ、ジャズに挫折させてきたか。世の中、好き勝手に対するだけで物事を理解できるほど「優秀」な人ばかりではない、といつも思います。
 それなりに努力してジャズが理解できるようになる過程も楽しいと思いますよ。イヤがらせの「騒音」としか思えなかった音が、ある日突然、意味があって血のかよった「音楽」として聴こえるという経験も、ジャズ鑑賞の醍醐味のひとつです。

CATFISH RECORDSへ