ジャズの扉を叩こう!
−ジャズという素晴らしい音楽
入門編−
第10回
BY 公子王孫
究極のアドリブソロその1
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[7]
『ライオネル・ハンプトン『スターダスト』(1947年)
“
Lionel Hampton / Star Dust
”
(Decca)
ライオネル・ハンプトン (vib)
チャーリー・シェイヴァース (tp)
ウィリー・スミス (as)
コーキー・コーコラ (ts)
バーニー・ケッセル (g)
トミー・トッド (p)
スラム・スチュアート (b)
リー・ヤング、ジャッキー・ミルズ (ds)
1947年8月4日パサディナ、シヴィック・オーディトリアムで実況録音
1. スターダスト
2. ワン・オクロック・ジャンプ
3. ザ・マン・アイ・ラブ
4. オー・レイディ・ビー・グッド
ヴィブラフォン奏者ライオネル・ハンプトンのアルバムです。タイトル曲の「スターダスト」を聴いてみましょう。
この曲はたいへん有名なスタンダードです。おそらくジャズを全く知らない人でも聴いたことがあるのではないでしょうか。まずはこの美しいメロディを充分に堪能してください。演奏しているのはアルトサックス奏者のウィリー・スミスです。この名曲のつくり出す世界を最大限に尊重した甘美な演奏です。
幼い頃の個人的な思い出ですが、母親がアクセサリーを入れていた小箱がオルゴールになっていて、ふたを開くと「スターダスト」のメロディが流れてきました。そのオルゴール部分には磁石の細工がしてあって、小さなバレリーナの人形が鏡の上で踊ります。
くるくる回るバレリーナをながめながら、そのメロディにうっとりした「甘い体験」が、僕の最も古い音楽の思い出のひとつです。
さて、それからたくさんの人が入れ替わり立ち替わりアドリブソロをしますが、いずれも「スターダスト」の世界からはみ出すことはありません。もちろんアドリブソロのメロディは元の曲とは異なりますが、聴いている人がこの曲が「スターダスト」であることを忘れることはないでしょう。
実を言うと、聴いて欲しいのは最後に登場するライオネル・ハンプトンなのです。このアドリブソロが、原曲をいかに超越しているかを知るために、ウィリー・スミスの元のメロディをじっくり聴いてもらいました。
ヴィブラフォンとは要するに「鉄琴」なのですが、この人の出す音は涼やかな鉄琴の音とはほど遠く、備長炭を叩いているように減衰時間が短く、野趣のある音を出します。そしてその音によって紡ぎ出されるメロディが、奇跡的なほど美しい。
「スターダスト」を聴くと、甘美な「情景」が目に浮かびます。僕の場合はオルゴールの上で踊るバレリーナの人形ですが、タイトルどおり美しい星空を目に浮かべても、全く違和感はありません。
一方、ライオネル・ハンプ卜ンのアドリブソロは「甘美」とはほど遠く、とても「饒舌」です。甘美な情景のBGM、あるいは甘美な情景を思い浮かべるための道具を求める人にとっては、こんなに音数が多いとせっかくの「スターダスト」が台無しだと思うでしょう。
それでもやはり、ライオネル・ハンプ卜ンのアドリブソロにこの上ない「美しさ」を感じます。しかしその美しさは「情景」ではなく、「物語」にあります。しかしそこに具体的な物語があるわけではありません。聴く人によって思い浮かぶ物語は異なるでしょう。
酒を飲み、二日酔いになり、うまいものを食べ、食べ過ぎて太り、恋愛をし、失恋し、仕事がうまくいき、ストレスで胃をいため、色んなことを経験してきたけど、それが混じり合って醸酵して熟成されてできた何かが抽象的な物語という形をとる。それが共鳴する美しさ。ライオネル・ハンプトンのアドリブソロの美しさは、そういうものだと思います。だからそれは大人になってわかる美しさなんじゃないかなぁ。
僕はこのアドリブソロを聴くといつも聴き惚れてわれを忘れてしまうのですが、聴き終わってホッとすると、大人になるのもそんなにつらいことばかりじゃないなぁと思います。
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