ジャズの扉を叩こう!
−ジャズという素晴らしい音楽 入門編−


第22回
BY 公子王孫
音色と音 その3

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 再生装置、つまり聴き手の方のオーディオに話を移しましょう。ジャズファンがオーディオをどうするかは、永遠の課題と言ってもよいかもしれません。

 ジャズとオーディオの関係を考えるとき、録音や再生は音楽の本質とは無関係ではないかという批判が必ずあります。その2の冒頭で言ったように、音楽が「音符」という記号のみを聴くものなら、オーディオは最低限のものでよいということになるかも知れない。
 しかし、ジャズが「音」を競うものである以上、そして、その1その2で紹介したようなジャズの「音」の楽しみが実際にある以上、でき得る限り優れたオーディオを使うべきだと思います。

 とは言うものの、特に初心者の場合、オーディオと、ディスクなどソフトへの資金の配分がむつかしいですね。オーディオは一度良い物を買ってしまえば、とりあえずは資金をつぎ込む必要がなくなるのですが、ジャズが楽しくなり始めると、どうしてもオーディオへの投資は後回しになってしまいます。
さらに個人の経済事情・住宅事情による限界もあります。CDをパソコンでリッピングしてiPodでしか聴けないという人もいるでしょう。自宅にはCDラジカセしか置けないという場合もあるでしょう。
 ジャズ雑誌を開くと、家が買えるくらいのお金をオーディオにつぎ込んだジャズファンが紹介されていて、ああこれくらいしないとほんとうはジャズを聴いちゃいけないんだ、と思ってしまう。
 しかし僕は、「オーディオはできるだけ良いもので聴くべきだ」ということを常に頭において、その人の許される条件の下で、ベターを求めていけばよいのではないかと思います。
 iPodで聴くときも、イヤホンを付属のものからある程度の値段のものに替えるだけで劇的に音が良くなります。CDラジカセも、高音質をうたっているものにする。
 第1回で、BGMとしてではなく、ジャズミュージシャンが語ろうとしていることを「真剣に」に聴こうと言いました。できるだけ良い音で、そしていつもより音量を上げて聴いてみると、ミュージシャンがぐっと近づいてきて、自分に向かって語りかけているような気持ちになります。

 僕の場合はどうだったか。いま自宅で使っているオーディオは、ジャズを聴き始めてから三代目になります。初代を買ったのは学生のときで、就職を機に二代目を購入しました。しばらく二代目を使ってから一念発起し、スピーカー、アンプ、CDプレーヤーの順に一年に一つずつ大きなグレードアップをし、今に至ります。
 CDプレーヤーを選ぶときは、前回紹介した[19]『モーニン』のCDをオーディオ店に持って行き、「モーニン」の冒頭のピアノが最も濃厚に聴こえる機種を選びました。僕はオーディオについて語れるほどの知識はありませんが、このとき、同じディスクでも機種によって音楽が全く違って聴こえるという経験をしました。極端なことを言うと、別の機種で聴くと、ミュージシャンが違うことを語っているように聴こえることさえあります。

 以上、ジャズのオーディオ(再生装置)について述べてきましたが、僕は、初心者にはぜひ「本物のジャズ・オーディオ」に一度はふれてほしいと思っています。
 どうやって? 日本には「ジャズ喫茶」という世界に誇るジャズ文化があります。
 ジャズ喫茶は単に“ジャズがBGMに流れる喫茶店”ではありません。コーヒーはいわば入場料であり、売りはディスクで聴かせるジャズです。したがって、どういうアルバムをどんな順番でかけるかにその店の個性、というか能力が表れます。
 そしてもうひとつ大事なのは、どういう音でかけるか、つまりどんなオーディオを使うかという点です。一般のファンの手に届かない高級オーディオで、「コーヒー」の一言がウェイトレスに聴こえないくらいの大音量でかけてくれます。
 圧倒的な音の良さと、聴き手にも緊張を強いる店の雰囲気が、最高のジャズを聴かせてくれる。ジャズ喫茶とはそういうところです。
 しかしこれは、僕がジャズを聴き始めた頃にはまだ残っていたジャズ喫茶の姿であり、今はなかなかこういう正統派ジャズ喫茶に通うのはむつかしくなっています。
 ジャズ喫茶の体験は、ジャズファンとしての僕の中で重要な位置を占めています。ここまで述べてきた「音」の重要性も、ジャズ喫茶で「本物のジャズ・オーディオ」を体験したことによって認識したものです。
 ジャズ喫茶については、回をあらためて述べたいと思います。

 ジャズは、剣豪が刀一本持って剣の道を極めようとするのに似ていて、楽器一本を持ってどれだけ自己をアピールするかという音楽であり、アドリブのフレーズとともに音色が重要な表現手段となっています。
 楽器から出た音波は鼓膜で感知しているのかも知れませんが、ジャズの楽器の音と共鳴した感覚は、からだ全体にじわ〜っと伝搬していきます。思わず「ああ〜」と声がもれるような音の魅力を堪能してください。

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