ジャズの扉を叩こう!
−ジャズという素晴らしい音楽 入門編−


第11回
BY 公子王孫
究極のアドリブソロその2

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[8]『クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ』(1954年, 1955年)
“Clifford Brown & Max Roach” (EmArcy)

クリフォード・ブラウン (tp)
ハロルド・ランド (ts)
リッチー・パウエル (p)
ジョージ・モロウ (b)
マックス・ローチ (ds)

1: 1954年8月2日録音
2: 1955年2月24日録音
3,4: 1954年8月6日録音
5: 1954年8月3日録音
6: 1955年2月25日録音
1. デライラ 
2. ザ・ブルース・ウォーク 
3. ダフード 
4. ジョイ・スプリング
5. ジョードゥ 
6. ホワット・アム・アイ・ヒア・フォー


 クリフォード・ブラウンはトランペット、マックス・ローチはドラムで、二人が「双頭」として率いるグループのアルバムです。二人以外にテナーサックス、ピアノ、ベースのいるクインテットです。
 ジャズ・トランペッターには、ジャズミュージシャンでおそらく最も有名なマイルス・デイヴィスという超大物がいますが、ことトランペットを吹くことに限っては、クリフォード・ブラウンの方が偏差値が高い。
「ジョイ・スプリング」を聴いてください。55秒辺りからアドリブソロに入りますが、まずはテナーサックスのハロルド・ランドから始まります。このアドリブソロもとても良いのですが、1分45秒から始まるクリフォード・ブラウンのソロを聴いてください。

 彼のアドリブソロのメロディは、即興でつくられていることが信じられないくらい完成度が高いのですが、実はそれ以前に、トランペットの音がたいへん魅力的です。
 トランペットという楽器が得意とする音というと、僕らは「伸びと張りのある澄んだ高音」をイメージします。しかし張り切り過ぎると細くてヒステリックな音になってしまいます。しかし彼の音は、高音でも充分な「太さ」を保っています。しかし真骨頂はむしろ中域の音にあります。金管楽器であることを忘れるくらいふくよかであたたかみがあり、一音一音が実に表情豊かです。そういう中域の音の特徴は、特にこの「ジョイ・スプリング」に顕著に現れています。
 彼のこういう音の出し方は、正統的なトランペットの演奏方法からは外れているように思います。しかしあえてそういう「トランペット離れした音」を自ら開発したのは、その方が「ジャズ的」だからでしょう。その意味で、ピアノのバド・パウエルと似ています。
 そして、この音が聴けるだけで幸せなのに、その音でたいへん美しいアドリブソロが演奏されるのですから、クリフォード・ブラウンは無敵のジャズミュージシャンなのです。

 さて、実は僕はクリフォード・ブラウンがとても好きなんです。しかし、トランペット演奏の偏差値が高いことは、好きになったきっかけでしかありません。
 僕はクリフォード・ブラウンのアドリブソロを聴くと、彼のことを「いいヤツだなぁ」と思います。これは、自分のために何かをしてくれた人のことを「いい人?」と言うようなぬるま湯的感覚ではありません。何があってもぶれない人間的な強さに基づく優しさ明るさ正直さ潔さにあふれている、そんな「人柄」が音楽によって表現されていて、僕はその「人柄」にほれています。
 もちろん、僕はクリフォード・ブラウンという人のほんとうの人柄は知りません(そもそも僕の生まれるずっと前に25歳の若さで亡くなったので知ることは不可能です)。しかしそんなことは問題ではありません。クリフォード・ブラウンのアドリブソロには、人間の創り出した最良の音楽のひとつが、「人の理想的な生き方の表現」という形で存在しています。
 人が人に魅力を感じるのは、その人が自分のために何かをしてくれるからでも、その人の能力が高いからでもなく、行動にその人の生きる姿勢や意志が見えて、それが自分の行動、場合によっては生き方に影響を受けるときだなぁと、クリフォード・ブラウンの音楽を聴きながら思ってしまいます。

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